卒業式(沙耶)

 




「もう私の手に負えません!」

 セレスは丸眼鏡の奥に涙を溜めながら、酒をあおった。

 馴染みの居酒屋。隣でセレスの愚痴を聞いているのは同窓の昔馴染み、沙耶だ。

「ずっと心配で、気にかけていたんですよ? しかも、わざわざ一緒にダンジョンにまで潜ったっていうのに……――あの子は一時反省したような顔をしただけで、実際はぜんぜん私の言うことなんか聞く気がないんです!」

「ふーん、あのユウ坊がねぇ……」

 沙耶は複雑な顔をして、コップを傾けた。珍しくセレスからの飲みの誘いと思ってやってきたら、この調子だ。なんでも、ユウキがいつまでもひとりきりでダンジョンに挑んでいることが問題らしい。確かに、いくら三年からの編入だからといって、もう後期授業も半ばを過ぎたというのに、そんな孤立していては担任として心配にもなるだろう。

「ふーん、じゃなくて、なんとかしてください沙耶さん。知り合いなんでしょう?」

 だん! とカウンターを叩いてセレスが沙耶を睨んだ。おっとりしたセレスの性格にしては、いつにない剣幕だ。沙耶は少したじろいだ。

「そんなこと言われてもねー。あの子とは随分年が離れてるし。ただ、妹と同級生だったから、よく相手をしてやったってだけで……今更どうこうってのは、ね」

「嘘です。この間来た時も、一緒にダンジョンに潜ったじゃないですか……。あなたの言葉なら素直に聞くかもしれません」

 沙耶は、無理矢理セレスを説き伏せて学園のダンジョンに入った時のことを思い出した。あの時は妹のリナと、ユウキの3人でパーティを組んだのだ。あの時はユウキが孤立しているだなんて知らなかったのだが……。

「ん……しゃあないね。他ならぬセレスの頼みだし、ユウ坊のことだ。なんとかしてみるよ」

「お願いしまふよう〜、沙耶しゃ〜ん」

「ああ、もう。アンタ飲み過ぎだよセレス」



 帰り道、酔い潰れたセレスを背負いながら沙耶は考える。年の離れた妹と、その幼馴染の男の子のことを。

 薙原ユウキ。

 昔、沙耶がまだ舞弦学園に通う学生だった頃、妹と遊んでいたその男の子を構ってやったことがある。妹のおもりのついでといったところだ。けれど、いつからだったか、ユウキは妹のリナではなく、沙耶にまとわりついて来るようになった。「冒険者になる!」と言って、沙耶の後を追って剣を振り回し始めたのだ。沙耶も遊び半分で、剣の手ほどきを授けたものだったが――。

「あの頃のことを、まだ引きずってるのかね……ハァ、確かにアタシにも原因、あるかもなぁ……ねぇ、セレス?」

「ん、うぅん……」

 セレスはまだ眠っていた。返事が返らないことを承知で、沙耶は呟いた。

「なんとかするよ、ユウキのこと。アタシも気になるんだ」






「ふう、今日も随分進んだな……」

 モンスターとの戦闘で、冬にも関わらず汗の滲んだ額を拭うと、ユウキは空を仰いだ。今日もひとりだ。しかし彼の胸にあるのは孤独ではなく、むしろ充実感だった。

 ユウキが目指すのは冒険者だ。しかもギルドに所属して、依頼をこなすだけのような雇われじゃない。自分ひとりで謎に挑み、己の目的を遂行する、開拓者にも似た最先端の冒険者。おまけに、その目的は極めて個人的ゆえに、目的が合う仲間は期待出来ない。授業とはいえ、こうして独りで挑み、サバイバルの力を養うことは、将来のため必要なはずだった。そして、ユウキは到達深度でクラストップを走っているのだ。それだけの実力がついているはずだった。

「明日の休みも、ネイ先生に鍛えてもらうか……」

 そんな色気のない計画を考えながらダンジョンの入り口から出ると、そこには珍しい顔が待ち構えていた。

「おかえり、ユウ坊」

「沙耶さん!?」

 日に焼けた快活な笑み。大剣を携えた青いショートカットの女性剣士、竜胆沙耶が親しげに手を振っていた。



「あ、リナは女子寮だと思うんですけど――」

「リナはいーんだ。今日はユウ坊、あんたに用があるんだよ」

「はい?」

 ぐいぐいと強引に腕を取られて、連れて来られたのはユウキの住まう男子寮。入ってきたのが部外者、しかも女とあって、ロビーに居合わせた寮生たちが何事かと騒いでいる。

「ちょっと沙耶さん! まずいって!」

「だいじょーぶだいじょーぶ。さぁて、ユウキの部屋はどこだい? ん、ここか」

 ずんずんと侵攻する沙耶は、目敏くユウキの部屋を見つけると、鍵のかかっていない扉を遠慮なく開けた。部屋の中は朝出かけた時のまま、つまり寝間着や歯ブラシが散乱する惨状だ。

「ちょ、沙耶さん! 片付けぐらいさせてくださいって!」

 ユウキは慌てて片付けようとする。しかし構わずに沙耶はどっかりとベッドに腰を下ろした。

「気にしなさんな。さーて、ヤラシイ本はどこかなー?」そう言って、シーツの下、ベッドの下をまさぐる沙耶。

「うわ、そこは駄目ですってば!」

 小さい頃からの「お姉さん」である沙耶に見つかるのは、同級生なんかに見つかるより遥かに気恥ずかしい。ユウキは沙耶を止めようとしたが、時すでに遅かった。

「あははは、発見! いやー、安心したよ。ユウ坊もちゃんと年頃の男の子なんだねぇ」

 ユウキ秘蔵のベラデッピンを両手に広げて、沙耶はけらけらと笑っていた。

「そりゃそうですよ!」もうユウキはやけ気味だ。

「……ダンジョン実習は彼女作るチャンスだってのに、男ひとりで潜ってるって聞いたもんだから、気になってね」

「なんですかそれは? どーせ女っ気ないですよ。それに俺は真剣なんです! 彼女だなんて、そんなこと考えてられないですから」

「ふーん、真面目だねぇ……いや、違うかな? こんな本隠してるんじゃあね」

「ぐ……っ」

 ユウキの顔は真っ赤だった。やはり沙耶は苦手だ。





「なぁ、ユウ坊」

 他愛ない話を続けて、沙耶はなかなか本題を切り出そうとはしなかった。自分に会いに来たというけれども、ユウキには心当たりはない。そろそろ陽も落ちて、どうにもユウキには居心地が悪くなって来たところだった。

「アンタ、冒険者になって、どうするつもりなんだっけ?」

 沙耶がそんなことを尋ねてきた。ユウキは何を今更といった感じで、答える。

「コルウェイドに渡って、父さんを探しに行く。……言ってなかったっけ?」

「ああ、そうだったね。でもアタシが聞きたいのは、その後さ。無事親父さんの消息がわかって、片をつ
けた後。その時アンタはどうするんだい?」

 それはユウキには初めての質問だった。今までこの手の質問には父を探すとしか答えたことはない。ユウキは少し考え込んだ。

「…………考えたことなかったな。だいたい、そうそうすぐに父さんの消息がわかるとは思ってないし」

 その答えに、沙耶はひとつ溜息をついた。

「なるほどね。今のユウ坊には、親父さんのコトしか見えてないってこと……これじゃあ、駄目だわ」

「むっ、何が駄目なんだよ!」


「ユウ坊が昔から変わってない、しょうもない小便垂れの小僧だってことさ」


 思いがけない言葉に、ユウキが絶句する。

「セレスから聞いたよ? ユウ坊、同じクラスに恋人とフィアンセなんていう、両手に花だったんだってね?」

「あ、あれは――」ユウキが顔を赤くする。けれど沙耶は言い訳を許さない。

「そのくせ、どっちかとくっつく気はない。誰とも深い関わりを持とうとしない。女の子も寄せ付けない。今日だけじゃない。ダンジョンじゃいつも一人だってね?」

「いけないかよ!」

「ああ、駄目だね。ユウ坊、好きな女の子ひとりいないんだろ?」

 挑発するような沙耶の物言い。それをあしらえるほどユウキは大人ではない。

「……それがなんだっていうんだよ」声が低くなる。

「女ひとり守れない――好きにもなれないようなヤツが、一人前なワケないだろ? いつまでもウジウジお父さん、お父さんって」

「言ったな! いくら沙耶さんだからって、そこまで馬鹿にされて黙ってられるか!」

 ユウキは思わず拳を振り上げた。




「舐めるんじゃないよ、ユウ坊。まだ卒業してもいないヒヨッコが、アタシに敵うと思ってるのかい?」

「く、くそ……」

 腕を極められて、ユウキが呻き声を漏らす。勢い良く沙耶に踊りかかったものの、ユウキは一瞬で沙耶に組み伏せられていた。

 沙耶はユウキに抵抗の意志がなくなると、腕を解いて剣を手に取った。

「ホラ立ちな。付き合ってもらうよ。アタシと一緒に来るんだ」

「どこへ?」

 痛めた肩を回しながらユウキが尋ねる。

「ダンジョンさ。夜のクエストと行こうじゃないか」





 沙耶の後に従って到着したのは、学園の外れ、寂れたダンジョンの入り口だった。しかし今までこんなダンジョンには入ったことがない。

「ここは……」

「今は使われていない最上級ダンジョン。昔は卒業試験に使われていたらしいけどね。ベネット先生が学園長になってからは、封鎖されたって話だ」

 ガシャンと南京錠を外して、沙耶は入り口の扉を開ける。中に入ると、そこは今ユウキが潜っている練習用の上級ダンジョンよりも、禍々しい気配に満ちていた。

「こんなところで、何をしようっていうんです?」

「ここでユウ坊の実力、試させて貰うよ。あれからどれだけ成長したか……ユウ坊が一人前だっていうなら、このダンジョン、クリアして見せな」

「無茶苦茶だ! だいたい俺、今日は一日中ダンジョン潜ってきたってのに……」

「無茶? はん、実際の冒険が、学校の授業のようなセオリー通りだと思ったら大間違いだよ! これはそのほんの一例さ。これがクリアできないようじゃ、到底コルウェイドで冒険なんて出来やしないね」

 そう言われては、ユウキに引き下がることは出来ない。

「く、わかりましたよ! やりゃいいんでしょう!」

「そう。やればいーんだよ、やれば」

 沙耶は笑って、回復用ドリンク一揃いをユウキに投げた。ユウキはそれを一気飲みすると、ダンジョンに飛び込んだのだった。







「ふーん、ランサーもなしに頑張るねぇ」

 1時間後。沙耶はユウキの後、5mほどを離れて付いて来ていた。現在地下3階。ユウキは沙耶の目から見ても、そつなくダンジョンを攻略していた。モンスターもまだ脅威ではない。余裕のある戦い振りだった。

「このダンジョンは地下20階らしいから、朝までには到着しそうだね」

「沙耶さん、背後でぶつぶつ言わないでくれませんか? だいたい手伝ってくれないなら、なんで付いてくるんです」

 ユウキが振り返り、尋ねてきた。

「この目で見なきゃ、ユウ坊の成長振りが確かめられないじゃないか。アタシは魔法使いじゃないんだよ。透視の魔法なんて使えないんだ」

「だったら、こんなテストしなくても……」

「なンか言ったかい? それと、ユウ坊が後ろから襲われても、助けないからね。気をつけなよ」

「へーへー」

 しかしその心配はなかった。ユウキは常に後方に気を配っていて、モンスターに不意打ちされるようなことは一度もなかったのだ。沙耶は密かに感心する。わりとずんずんと進んでしまう性質の沙耶は、不意打ちを力ずくで撃退することが多いのだが。

(ま、不意打ちされないに越したことはないね)




 そして地下8階、地下11階、地下15階と進んでいくにつれ、沙耶はユウキの実力に感嘆していた。

 なるほどずっと独りで実習をこなしてきただけの腕前ではある。実習は普通、ふたりか三人で潜るものだ。それを独りでこなすとなると、余程の実力がなければやっていけまい。ただし、授業で目立つ類いの力ではない。単純にひとつの技能なら、ユウキより秀でた生徒はいくらもいるだろう。しかしユウキは剣技、盗術、魔術と、冒険に必要な技能をバランスよく学んでいた。剣を振るい、罠をかいくぐり、魔法剣も操る。確かに器用貧乏と言えばそうだが、沙耶のような専業の剣士からすれば、羨ましく見えるところもあった。



 そして、真夜中から早朝になりかけようという頃、ふたりはとうとう最下層に到達した。

「ここが最下層か……卒業試験に使われていたっていうなら、どこかに合格証のようなものがあるはずだ……」

「イイ勘だね。ダンジョンクリアの条件も教えてないってのに」

 もはや沙耶の言葉は無視して、ユウキは辺りを探索する。

「……あれか」

 フロアの中央、祭壇のようなところに、一際大きな宝箱が鎮座していた。ユウキは用心深く近付くと、宝箱を調べた。

「鍵は……なし。トラップ、なし」

「よし……開けるぞ」

 ガチャ。金具の音を響かせて、宝箱の蓋が開いた。

「これで、俺の勝ちですね、沙耶さん――?」








 意識が戻ったときに、まず始めにユウキの目に入ったのは、沙耶の顔だった。

「沙耶さん……?」

「お、気がついたかいユウ坊。気分はどうだい」

「最低……頭がいってぇ」

「もう少し寝てな。今何か飲むものでも持ってきてやるよ」

 沙耶の顔が離れて、ユウキはここが自分の部屋だと気付いた。そうして、どうして自分がベッドに寝ているのか、だんだんと記憶が戻りだす。

「ほら」

 ペットボトルを受け取って一口含むと、すっかり頭が冴えてきた。

「すると俺は……ダンジョン攻略に失敗したのか」

「そういうことになるね」

 沙耶がベッドの脇に座る。

「今回は攻略失敗で終わりだけど、これが実戦だったら、ユウ坊、死んでるよ?」

「う……」

「わかったかい、ユウ坊。冒険じゃあ、常識なんて通用しない。いきなり高レベルモンスターと出会うこともある。思いもかけない罠に落ちることもある。お宝発見と思ったら、盗賊に掠め取られることもある。そんな時に頼れるのは、もちろんひとつには自分の力。けれど忘れてならないのは仲間ってわけさ」

「……わかりませんよ。だいたい、今回のはフェアじゃない。こっちは沙耶さんが襲ってくるなんて思ってないんだから」

「それが素人の浅はかさってヤツさ。仲間だと思っていたヤツが、突然掌を返して裏切ることもあるんだ」

「…………沙耶さん、言ってて気付いてます? 俺に仲間の大切さを教えるつもりだったら、今回のコレは逆効果。仲間への不信感が募るだけだって」

「ん? あ、あれ〜? いやー、あはは、そうなっちゃうかなぁ?」

 誤魔化し笑いをする沙耶に、ユウキはふう、と溜息をついた。

「でも、わかりましたよ。約束は約束だ。俺はまだ半人前ってことで、沙耶さんには敵わないよ。俺の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしてください」

「おー、いい覚悟だね。そういう子は好きだよ。それじゃあ――」

 言いかけて、はたと沙耶は考える。ここで「他の友達ともパーティを組むように」と言っても、意味はない。それこそセレスの二の舞だ。よしんばユウキが言うことを聞いたとしても、もう卒業は間近。良い経験を積めるかどうか、疑問がある。

「沙耶さん?」
 固まっている沙耶に、ユウキが不思議そうに見上げてきた。沙耶は考える。重要なのは、時間。もっと時間が必要だ。そしてその間、ユウキを教え導く人が必要なのだ。だとしたら――――クラスメイトにもセレスにも任せられない。答えはひとつしかない。

「それじゃあね、そう……卒業したら、一緒にコルウェイドへ来な。アタシがあんたを鍛えて、立派な冒険者にしてあげるよ!」

「え……ええーーー!!!」






「えーっ! どうしてそんなことになっちゃったんですか?」

 事の顛末を報告すると、セレスはいかにも不服そうな声を上げた。

「どうしてって、あの子のことをなんとかしろって言ったのはセレスだろ」

「私は、あの子に孤立して欲しくないだけです! 沙耶さんとパーティを組んで欲しいだなんて言ってません!」

 セレスらしくない、強い調子だ。沙耶はたじろぎながらも、なんでセレスがそんなにユウキのことを気にするのか、とふと思った。

「しようがないだろ。ありゃ頑固者だ。在学中になんとかするのは無理だよ。だからって卒業しちまったら、誰もあの子の行動を縛ることはできないんだ。セレスだって、ベネット先生だって、もう口出しできないんだぞ」

 それは確かに正論で、「それは……そうですけど」セレスの口調が弱くなる。沙耶は続けた。

「だからアタシが保護者代わりになってやるだけだって。こうやって無理矢理にでもパーティを組めば、そのうちあの子も仲間の大切さってものがわかってくるはずさ」

 ばんばんとセレスの肩を叩いて、沙耶は笑う。しかしセレスはまだ浮かない顔だった。

「でも……それじゃ、別の心配が出来ちゃうじゃないですかぁ……」

「なんか言った?」

「いいえ、何でも。もう諦めましたから、ちゃんと薙原君のこと、頼みますね!」

(ハァ……沙耶さん、気付いてないのかな? 薙原君、相羽君に雰囲気似てるんだって……沙耶さんとおかしなことにならないといいけど……)

 そうして、セレスは二度目のチャンスも失敗に終わったことを実感した。








 そして3月。光陵学園に卒業式の鐘が響き渡る。

 卒業式を終えて、ユウキは教室に別れを告げると、校庭へ出た。辺りは卒業生とその父母、そして教師たちで溢れていた。そしてその中に、ユウキが待ち受けていた、ユウキを待ち受けていた彼女の姿を見つけて、ユウキは歩み寄った。

「沙耶さん」

「卒業おめでとうユウキ。……約束だ。これから付き合ってもらうよ」

「ん……わかったよ」

 あれから数ヶ月経っている。もうユウキも納得していた。考えてみれば、沙耶と冒険することはユウキにとってありがたいことなのだ。ユウキの目的を知っていて、付き合ってくれるということなのだから。けれど照れ臭いのは変わらなかった。どうしてもぶっきらぼうになってしまう。

 そっぽを向いたユウキの首を捕まえるように、沙耶は笑って腕を回した。

「さ、沙耶さん!」

「なに照れてるんだい、ユウキ」

「照れてませんよ!」

 背中に押し付けられる胸の膨らみを感じて、ユウキはどきまぎする。そんな時、

「あ、お姉ちゃん!」今ユウキがいちばん聞きたくない声がした。

「よう、リナ。卒業おめでとう」

 駆け寄ってきたのは、果たして沙耶の妹、リナだった。

「あ、ありがとう。……じゃなくって! どうしたの? ユウキの首根っこなんか捕まえて」

「いやあ、コイツが逃げないように用心でね」

 沙耶がぎゅっと腕を締める。そのせいでユウキの背中に当たる胸の感触がいっそう鮮明になった。ボリュームはないが、それでも。この状態はやばい。ユウキはじたばたもがいたが、逆効果だった。リナがじと目でにらんで来る。

「アンタまた何か悪いことしたの?」

「してねーよ!」

「いやねリナ、コイツがあんまり未熟者だから、アタシが面倒見てやろうと思ってね。セレスからも頼まれたし」

「えーっ! それって、ユウキがお姉ちゃんといっしょに冒険するってこと?」

「んー、そうなるかな。ま、よろしく頼むよユウキ!」


(さて、素直に仲間を受け入れるまで、どのくらいかかるかなー。ま、2、3回死にかければ考えも変わるだろ。親父さんのことは……折を見て、成長次第かな)

(あー、なんだってこんなことに。でも沙耶さんと冒険か……子供の頃は、夢見たこともあったっけ……)

(どうして、お姉ちゃんがユウキと……!? もー、お姉ちゃんの馬鹿! ユウキの馬鹿―!)





 キーンコーンカーンコーン……

 卒業の鐘が鳴る。これもひとつの終わり。そしてまた、ひとつのはじまりの鐘――。





 

 あとがき

 ぱすチャCのSSです。総合的にみて、これは面白かった、と言っていいでしょう。魅力的なキャラが多いのが魅力ですね。その割にサブキャラエンドはエロなしで、SSの余地が多そうなゲームです。

 で、今回は仮想沙耶エンドを組み立ててみました。分岐としてはセレス攻略でクエストを終わった後、そのままセレスの忠告を聞き入れずに独り潜りを続行したという感じです。実は実際にゲーム中でやってしまい、そのまま独りエンドを迎えてしまったのですが。

 沙耶はぱすチャではいちばんのお気に入り。ぱすチャCでも再登場で、しかもSクラス冒険者、ヒロインの姉という待遇でブラボーです。28歳ですがエルフのセレス並にまだ充分若いよ! 姉御な性格も、実際に頼りがいのある年上女性の立場で、ハマリですね。ほんとはリナ絡みで「お姉さんの手ほどき」みたいなHシーンも妄想したんですが、このSS的には無理な展開でした。

2005.7.25

 追加あとがき

 その後ぱすチャC++が出て、沙耶のHシーンは追加されてましたね。あの展開はアリなのか、と個人的には思いましたが。

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