このSSは設定的に「友達」の続編となってます。出来ればそちらを御覧になってからお読みください。

 

さよならにかえて

 

 

「とうとうここまで来た……」

 ここは魔物の森。人間側の全戦力をかけた魔王城攻略戦を控えて、サテラは魔王城を見下ろした。人間達が見れば、禍々しいとでも言うんだろうか。そんな雰囲気を纏った巨大な城。確かに今はそうかも知れない。今サテラが見ているのは、サテラが知っている魔王城じゃない。長く暮らしてきた我が家にも似た城じゃない……。今その玉座にいるのは、ガイ様でもホーネット様でもない、あのケイブリスなんだから……。

「待ってて、ホーネット様。それに……」

(シルキィ……)

 その名を口に出すのが、なんだかひどく難しい。こんな気持ちでその名を呼ぶことがあるなんて、考えもしなかったから。いつも口やかましいあの子にサテラも口答えして、喧嘩みたいに言葉を交わすことが多かったから。でも……今は違う。

「シルキィ……」

 サテラが呼んだ友達の名は、深い漆黒の城に吸い込まれるように消えて行った。






 もともと、サテラはシルキィとそんなに仲がいいわけじゃあなかった。魔人同士が仲がいいっていうのも珍しいから、それは普通なのかもしれない。でも、ホーネットを中心にしていつも一緒に過ごしている事が多かったサテラ達だから、仲がいいにこした事はなかった。同じ様な小さな身体にサテラは赤い髪、シルキィは青い髪。サテラはガーディアンメイキングが得意だけど、シルキィは魔物合成を特技としている。サテラはちょっと我侭だけど、シルキィはちょっと真面目過ぎる。よくサテラに小言を言うシルキィを見て、ハウゼルはサテラ達をまるで正反対だと笑う。それは、その通りだとサテラも思う。サテラ達はお互いが違っていたから反発していた。でも、ほんとうは心の中ではお互いに惹かれ合っていたんだ。

「私は、あなたが羨ましい。サテラ」

 ふたりの感情が衝突して、大喧嘩になって、そしてわかりあえた時。サテラとシルキィがはじめて友達になったあの日。シルキィはそう言った。ほんとに優しい目をして。でも、それはサテラも同じだった。シルキィは、サテラに無いものを持っていた。サテラが幼馴染だのなんだの言っても、最後にホーネットが頼りにして、そしてそれに応えるのがシルキィだというのは、サテラの嫉妬と羨みの元だった。

 シルキィ。ホーネットの右腕。ホーネットの影。ホーネットがいちばん――それは多分幼馴染の絆よりも――信頼している子。そしてシルキィも……その全身全霊をホーネットに捧げていた。でもそれが、その結果が、こんなことになるなんて……。






 その日、サテラは普段と変わりない――今はもう慣れて、それを日常と感じてしまう――リーザス城にあてがわれた自分の部屋でガーディアンの製作をしていた。

 知らないうちにリーザス王になっていたランスは、2年足らずという信じられないほど短い間に、人間世界そのものを統一してしまった。そして今度はケイブリスのやつに対して戦いを挑んでる。しかも並み居る魔人をことごとく撃破して……まったく、スゴイのか馬鹿なのか……ううん、ランスは魔人に近いんだ……ランスが魔人になればいいのに……。

 そんなとりとめのない思考をしながら、作業で泥だらけになってしまった身体をシャワーで流した。熱い湯が身体のそこかしこにこびりついた泥を洗い流していく。気持ちがいい……。でも、泥の落ちた自分の身体に、赤い痕があるのを見てしまうと、思わず頬が火照ってしまう。昨晩はランスに呼ばれたんだった……。

「シーザー」

 シャワーから出ると、シーザーがタオルを持って待ち構えていた。サテラの細い身体、水に濡れてつやつやと光っているサテラの赤い髪を拭いてくれる。壊れ物でも扱うように優しく、その大きく岩のような指の動きとは信じられないほど心地いい。それはいつもと同じ、くつろげる時間。

「あっつーい……シーザー、何か冷たいの。かき氷がいい。シロップはいちごにしてね」

「ハイ、サテラサマ」

 シーザーが命令を聞いて、部屋を出て行く。でもシーザーには悪いけど、いつものような気楽な時間は、今日は過ごせないみたいだ。

「………………さっきから気配を殺してるけど……誰かそこにいるでしょ? 出て来たらどうだ?」

 サテラはカーテンの向こう側にいる相手に向かってそう言った。シャワーを浴びている間から、その気配には気付いていたんだ。

(殺気はない……でも、サテラと同じものを感じる……魔人……でも……)

 サテラが知っているどれとも違う気配のように感じる。しかし、ふわりと動いたカーテンの陰から現れたその姿は、果たしてサテラが良く知っているものだった。

「人間の世界にずっといても、力の衰えはないみたいね、サテラ」

「シルキィ!!」

 突然現れた懐かしいその顔に、サテラは駆け寄った。

「シルキィ、どうして……」

「色々あって……あっ!」

 1、2歩足を進めると、シルキィはふらりとその小さな身体をよろめかせた。

「シルキィ!!」

 慌てて支えようとしたサテラの腕の中に、シルキィが倒れるように飛び込んできた。自分よりも一回り小さい少女の身体を胸に抱きとめる。懐かしい感触。サテラがリトルプリンセス様の護衛のためにリーザスに遣わされてから、魔王城でケイブリスどもを食い止めていたシルキィ達とは2年近く会っていない。久しぶりの友達の温もりは、しかし……熱すぎる!

「シルキィ……!」

 サテラの驚いた言葉に気付いて、シルキィは力ない微笑みを返してきた。

「ふふ……わかってしまった……?」

「うん……」

 シルキィの小さな身体には、今にも破裂してしまいそうなほどのエネルギーが渦巻いてる。それは……サテラにも流れているもの。魔人の……魔王の血。それは明らかにシルキィの身体が受け入れる事の出来る限界を超えている。

「……でも、どうして? どうして、こんな……危険な……」

「決まっているでしょう……ケイブリスに勝つ為よ……そして……ホーネット様を救い出すため……」

「ホーネット様を………………」

 サテラは絶句する。ランスと一緒に魔人領に攻め込んでも、出くわすのはケイブリス配下の魔物ばかり。ハウゼルは助け出したけど、ホーネットとシルキィの消息はわからなかった。楽観的な推測をしてたわけじゃないけど、よりにもよってホーネットがケイブリスの野郎に捕まっていたなんて……。

「今日は、サテラにお願いがあって来たの……」

「……何?」

「私はケイブリスと刺し違えるつもり……というか、そこまでしか持たないと思うの……」

「シルキィ……!!」

「まだよ……落ち着いて聞いて……だから……その後ホーネット様を助けて差し上げて……貴女なら……出来ると……信じている……サテラ……」

 シルキィがサテラの瞳を正面から見据えて懇願する。サテラは……その真っ直ぐな瞳に耐えられなかった。ホーネットが捕まった? ケイブリスに? そしてシルキィはその命を掛けてホーネットを取り戻そうとしているなんて……。

 サテラのせいだ。

 サテラがリトルプリンセス様を説得できなかったから…………早く魔王として自覚を持って覚醒してもらう為に、サテラはここにいたのに。その間も、シルキィ達は命がけで戦っていたのに。シルキィがこんなに思いつめるほどホーネットのことを思っているのに……!

 サテラは何もしてこなかった。リトルプリンセス様の警護といっても、カミーラ達との戦いは、お互いに命がけのものじゃなかったし、もともと人間たちの戦争には高みの見物を決め込んでいた。そして、ランスとの関係だけが世界の重大事のように思っていた……!

「シルキィ……ごめん、ごめん……サテラは……」

「謝らないで。サテラは、ホーネット様の命に従っただけ……リトルプリンセス様の警護は充分果たしている。……私は……私の力が足りないばかりにハウゼルを失い、ホーネット様を奪われ、……そして、自分の判断でこの選択をした……。それでも、ホーネット様は喜ばないかもしれないけれど……」

 違う! どうして……シルキィは、いつも自分で自分を追い詰めてる。そんなに何もかもをその小さな背中に背負い込まないでもいいのに……。サテラじゃ頼りなくて、シルキィに叱られてばっかりかもしれないけど、それでもその重荷を一緒に背負ってあげる事ぐらい出来るのに……! 友達って、そういうものなんじゃないの?

 それを声に出すことは出来なかった。でもサテラの表情からわかったのか、シルキィが言った。

「ごめん……ね。私の悪い所だとは、思っているわ…………でも、ふふ、死ななきゃ直らないんだろうな、これは……」

 寂しげに笑う。今にも消えてしまいそうな、そんな儚い笑み。サテラは胸が痛くなる。

「シルキィ……そんな……悲しい事言わないでよ…………帰って来るって、言ってよ……!」

「サテラ、お願い……私を困らせないで……」

 シルキィは悲しそうに顔を歪める。そう……シルキィにはもう選択肢が無いんだ。ここでサテラがわがままを言っても……どうしようもない。

「……わかった……それでシルキィが存分に戦えるなら……でも約束して。出来る限り、帰って来るって……」

「うん……」

 シルキィは小さく頷く。

「じゃあ、私は行くわ。私に残された時間は……残り少ないから…………ホーネット様の事、お願いね……」

「……うん……」

 サテラは頷くしかなかった。それを見たシルキィはサテラの手から離れて踵を返す。シルキィの身体がふわりと浮き上がる。

「シルキィ……!」

 シルキィは最後に、もう一度だけ振り返ってサテラを見た。そして、にっこりと笑って言った。

「……さよなら、サテラ」

「シルキィ!!」

 アッという間にその姿は見えなくなる。サテラの叫んだ友達の名だけが、リーザス城に谺した。






 魔王城を眼前に見下ろした、魔の森の奥深く。

「はあ、はあ、はあ……」

(くっ……リーザスからここまで飛んで来るだけで、これほどの痛みがあるとは……!)

 私は荒い息をつきながら、己の身体を呪わしく見回した。表面的には今までと何ら変わる事の無い、少女のような外見だ。しかしその中身は今この瞬間にも崩壊しかねないほどの過負荷に悲鳴を上げていた。だが、それも自分の選択の結果だ。後悔はしていない。

 しかし一瞬だけ脳裏にサテラの顔がよぎる。あの泣きそうな顔。私はほとんど見た事がなかった、友達の顔。私の事を思ってくれる友達の……。

『約束して。出来る限り、帰って来るって……』

 その言葉を胸に刻んだのが、もうはるか遠い過去のような気がする。しかし何て事だろう、まだ1日とさえ経っていない。

「帰って来て……か……」

 後悔と言えば、後悔なのだろう。その約束に、私は頷いてしまったのだから。でも……私はこの後自分にどのような運命が訪れるか、はっきりと自覚していた。

「ごめんなさい、サテラ……」

 それを、受け入れる。呼吸は既に落ち着いていた。






 私は魔王城に潜入した。結構な数の見張りがいる。しかし、今の私を止められる者など存在しない。私は一片の慈悲もなくそれらを片付けると、ゆっくりと歩を進めた。目指すは玉座の間。ケイブリスのヤツは、きっとそこにいる。

「ぎゃああああ!!!」

 その部屋にあと一歩というところまで迫った私のところに、身の毛のよだつ様な女の悲鳴が響き渡った。そしてそれに続いてヤツの声が聞こえて来る。

「ちっ……もう死んじまったのか。駄目だな、人間の女は。もろっち過ぎる。なんか、こう……もっと遊び甲斐のあるのがいいな。そうだな……ホーネットでも……」

「ホーネット様を……どうするというのだ?」

「誰でぇ?」

「ご機嫌じゃないか。ケイブリス……」

 私はケイブリスの前に姿をあらわした。やつの醜悪な姿が私の目に入る。獣の顔から生えた角とも触手ともつかぬもの。鎧を着込んだ毛むくじゃらの身体には大小6本の腕。見れば見るほど……吐き気をもよおす。だが、その忌々しい姿を見るのも後少しの間だけだ。

「シルキィ?」

 ケイブリスは私の姿を認めると、ぶるりとその巨体を震わした。獣の本能か? 私が放つ威圧感に、頭では理解しなくとも自然と身体が反応しているようだ。戸惑ったようにがらがら声を発する。

「なんだ……お前……」

「どうした? 私が恐いのか? ケイブリス」

 私は薄く笑った。完全に馬鹿にしたような視線を、ケイブリスに向ける。自分の何倍もの巨体を持った相手――それも普段なら勝つことも出来ないような――が萎縮しているという様は、なかなかに愉快だ。末期の愉悦としては悪くはあるまい。

「なんだとぉ!? ……けどな……なんだ……お前は……どうして……――こんなに強くなかったはずだ……」

 ようやく威圧感の元が私の強さだと気付いたようだ。獣にしては飲み込みが早い。

「ふん……体力馬鹿でも……私が変わった事が理解出来たのか。誉めてやる」

「わっ……わかった!! てめぇ、何人飲み込んだ!!」

 ケイブリスが顔色を変えて叫んだ。しかし、私の方が……もう限界に近い。押し殺したような声を喉の奥から絞り出す。

「……そんな事はどうでもいい……お前を殺すためなら……私はなんだってする……ただそれだけだ」

「馬鹿がっ……! 一介の魔人が何人もの力を飲み込んだなんて!」

 ざわっ……! その言葉が引き金となったかのように、私の中の力が再び蠢き始める。カミーラ、ケッセルリンク、メディウサ、パイアール、レッドアイ……魔人5人分の血の力。あと少し、待ってくれ……持ってくれ、私の身体。これが、最後だ。私はその力すべてを解放して攻撃のために集中する。そして、叫んだ。

「それもこれも、すべて貴様の為だ! 私に感謝し、あの世へ行くといいケイブリス!!」

 私はケイブリスに向かって突進した。






 最後の一戦は人類側優勢で進んでいた。これが最後の戦いとなると、人間の軍勢も士気が高い。それにいかにケイブリス配下の親衛隊とはいえ、既に数の面で圧倒的にこちらが勝っている。戦いは戦争ではなく、次第にモンスター退治の様相を帯びてくる。

 ざしゅ!

 シーザーが長剣で数頭のモンスターをまとめて薙ぎ払った。討ちもらしをサテラが魔法で貫く。

「雑魚どもは気にするな。ケイブリスとやらを叩くぜ!」

 ランスがサテラに声を掛けてきた。サテラは頷いた。魔人であるケイブリスは同じ魔人のサテラ達か、ランスの持つ魔剣カオス、健太郎の持つ聖刀日光でしか傷つけられないのだ。

「仲良しビーム!」

 ハウゼルとサイゼル、炎と氷の魔人姉妹が放った一条の魔法の光が、魔王城の扉に向かって進路を切り開き、扉を破壊する。そしてサテラ達は一直線にそこ目掛けて飛び込んだ。

 城の中にはもはや警備のモンスターも残っていなかった。限りなく無人に近い支配者の城。そこには身体がすくむような静けさがあった。そして、その静寂の中にゆらりと現れる巨大な影。

「ケイブリス……っ!」



 終わってみれば、戦いは拍子抜けするほどに一瞬だった。

 サテラが、ハウゼルとサイゼルが、魔法を放つ。その間を縫うようにランスと健太郎が斬りかかる。無数の魔力と斬撃がケイブリスの巨体に吸い込まれ、そして、それは倒れた。

「あっけない……」

 脱力した拍子に、サテラの口からそんな言葉が漏れた。だけど、すぐに唇を噛む。どの口からそんな言葉が出せるんだ、サテラは? ケイブリスがこれほどまでに消耗していた意味。それをわかっていたはずじゃなかったの?

「ハウゼル!」

 ハウゼル達に目配せした。ランスはケイブリスを倒すのが目的かもしれないけど、サテラ達は違う。ケイブリスを倒すのは、目的のために邪魔だから。サテラがやらなきゃいけないことは、ホーネットを助ける事。そして――

 走る、なんて悠長なことやってられない。シーザーの巨体ごと魔力で浮力をつけると、一気に加速した。行き先は? 多分地下牢だ。ホーネットはそこにいる。

「ホーネット様!」

 果たしてその予想は当たっていた。しかし思い描いていた光景――地下牢に鎖で繋がれるなんて生易しいもの――とは違っていた。確かに地下牢にホーネットはいた。ただし複数の下等なモンスターに犯されているという状態で。

「貴様らぁぁああっ!!」

 怒りで身体が震え、感情が魔力を高ぶらせる。その制御なしの魔力が、モンスター達を焼き払った。もちろん、ホーネットには火傷の染みひとつつけずに。瞬時に灰と化したモンスターをかき分けて、ホーネットを抱いた。

「遅れて……ごめんなさい、ホーネット様……」

「サテラ……ありがとう」

 なんで、ありがとうなんて声をかけられないといけないの? リトルプリンセスに魔王としての自覚を持たせることもできずに、ホーネットをこんな風にしたのはサテラなのに。でも、うん、ホーネットならそう言うよね……でも、あの子は……

『遅い! サテラ』

 ……って言うだろうな。



 ……でも。

 それは叶えられなかった。

「シルキィ……」

 サテラは呼びかけた。でも、それに答える声は、ない。

「シルキィ……」

 てのひらの上で鈍く輝くその赤い玉は、ただ無表情に光を返すだけ。

「シルキィ……っ……!」

 頬を伝わる熱い雫が魔血魂を濡らしても……。






 ホーネットを助け出したサテラは、シルキィを探した。だけど、必死の捜索の果てに見つけ出せたのは、身体が滅び魔血魂となったシルキィの姿だった。

 サテラは泣いた。ハウゼルも涙を流した。サイゼルはつまらなそうにそっぽを向いた。ホーネットは、サテラ達をまとめる立場だから我慢していたけど、心の中では涙を流していたんだと思う。

「約束が違うじゃないっ……!」

 サテラはそう叫ぶのを抑えられなかった。

「帰って……帰って来るって、約束したじゃない……」

 サテラ達は戦いに勝った。戦争は終わった。でも……シルキィは帰って来なかった。






 夢を見る。

(サテラ)

 シルキィ! どうして……

(ごめんなさい……)

(ちょっと……疲れちゃったから……眠る……ね……)

 そんなの……ないよ……。なんでシルキィばっかり、こんな…………みんなで、ホーネット様のまわりで笑っていようよ。

(眠るだけ……ほんのちょっと……だから……)

 ほんのちょっとって? 10年? 100年? それとももっと……? サテラは、そんなに気が長くないんだから!

(あは、そっか……)

 もう……破られるだけの約束なんて、サテラはいやだ。

(……そう)

(じゃ、約束はしない。再会を期した別れの言葉、それもなし。私がするのは……そう……ただの挨拶。例えば友達と道ですれ違った時、日常で何の期待も、望みも込めず使うような……そんな当たり前の言葉。だから、私が目を覚ました朝に、サテラも……)

 そんなの、勝手……! シルキィって、いつも自分だけで何でもしようとするんだから!

(……それは……また今度。じゃあ、サテラ……)


(……おやすみ)





 目が覚めた。ベッドにはサテラひとり。涙に濡れた枕が冷たい。

 胸の中には、魔血魂。シルキィの魂。彼女が語りかけていたんだろうか……。サテラにはわからなかった。でも、それを夢だと片付けてしまうのはあまりに悲しい気がした。友達の声は、確かにサテラの心に訴えていたから。

 だから……サテラは胸に抱いた魔血魂に囁いた。

「おやすみ、シルキィ」

 今は、こう言っておくね。それから……シルキィが帰ってこられた時には、

「おはようっ」

って言ってあげる。

 絶対……だから……ね……

 

 

 

あとがき

漁民さんのアイディアを元にした、サテラの側から見たシルキィとのお話です。いろいろと書くのが難しかったですね……。

蛇足かもしれませんが一応説明――というか私の考えを言っておきます。鬼畜王を見る限り、普通魔血魂になっても意識は残っているようですが、シルキィは無茶をしたせいで意識を保っているのも無理なほどに消耗したという風に考えてます。

サテラがホーネットに「様」付けする時としない時があるのは、私の勝手なイメージです。ゲーム中ではいつも「様」を付けて、節度を持って接しているようですけど、幼馴染という面を強調したいな、と思って第三者がいないときには「様」無しにしました。

しかし、ホーネット派の魔人たちはいい娘ばかりです(^^;

 

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